民話 奇岩「雨降り石」



奇岩「雨降り石」

安良里の坂本海水浴場の中央に凝灰岩の形の悪い円筒形の大きな岩塊が座している。

大人で十六人抱え、高さは四米余である。岩の頂上よりちょっと下った

東側面に直径六十センチ奥行きも同様六十センチ位の円型の穴が出来ている。

計算して測って作ったような形で、素晴らしい出来ばえなので、

誰かが掘ったようにも思えるが、自然に出来た穴であろう。

この穴に小石を投げ込むと雨が降ると伝えられている。

この石を「雨降り石」という。何時頃からこのような呼び名が生じたのか

古老にも分からない。雨が長く降らず旱天続きで田植えが出来なくなったり、

植え付け後であっても水不足が長く続くと、農家の衆がここに集まって

岩裾で雨乞いの祭事を行った。九つ半刻(午後一時)頃より薪に点火して

これに生っ木をどんどん追加して大火を焚き続ける。

太陽が西に没する頃と合わせて、手甲脚絆に蓑笠を着けた田植え姿の祭主が、

この岩に登ると、これを目掛けて雨に擬した水を掛け、同時に岩を清める。

岩から降りた祭主が最初に、この穴を目掛けて祈念しつつ小石を投げる

参加した皆の衆も同時にこれにつづく。簡単のようでなかなか難しく、

上手に入らない。僅かだと小雨、沢山入るほど大雨だという。

氏神様の庁屋に引き揚げて籠の支度をして酒盛りを始める頃になると、

そのとおりの雨が降ったというから奇岩である。

梯子は掛けないサ、坂本へ遊びに行くとこの岩に登るのが子供の時の

遊びだったニ、上はわりあい平らだニ、ア、本当だ試してみたら簡単に登れた。

祝詞は無かったナー、大火を長く焚くほど御利益があると古い衆はい

ったナー、水をかける役は俺ーやる。俺ーやると騒ぎだが蓑笠を着ける役は

皆んながヤダがったナー、汝ーやれ、お前がやれといろいろやったが、

みんな逃っ尻をかまえていてやりたがらなかったナー、仕様がなくて

「ヨシダ」の爺さんに頼んでやってもらったのサ。

それが終いには「ヨシダ」の爺さんの役のようになったナー。

今のように色々の入れ物も無かったし、手桶で水をかけたが、

そこまであまり届かなかったニ、

若い衆は爺さんが岩から降りて来ると「オマケ」だといって又浴びせかけて

面白がったニ。ある日、今日昼から雨乞いをやろうじゃと話があったが、

こんな日にやったって雨なんか降るもんかといって出ずに居たら後で

八分にあったニ。と宮崎覚治郎翁は語った。アノ岩は大部埋まったニ

、まァだ三尺(約1米)位い高かったナー

、雨乞いの話は聞いているが、俺ァあっこでやった覚えはないナーと、

藤井寅吉翁は語った。

この雨乞いの祈祷の祭事も厳格な規律のあった団体行事だったように思える。

又昭和の年代に入ってからは行われていないようだ。

県道(現国道136号線)が開通される昭和六年までは、この岩より四米程度離れた

ところの山側の裾を砂浜より僅かに高く、ちょっと大波だと路面は常に波に

洗われている通巾二米位の宇久須に通づる道路があった。

ここが、ちようど見上げて石を投げ込む

最適な場所で大人も子供もここを通る時は、雨乞いの行事を真似て

小石を投げて一刻興じた。今、この「雨降り石」も国道から見下ろす位置に変わった。

100年前にいれたものか又は、きのう投げ入れたものか、

誰が入れたものか今10数個の小石が入っていて雨を呼んでいる。

以上 賀茂村教育委員会発行 賀茂村の伝説より

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